時言時論
   
「同時改定」の目指すところ 
 
 
会長 池 田 琢 哉
     
          
 はじめに

 平成30年度の診療報酬改定は、6年に一度の、診療報酬と介護報酬の同時改定となった。今回の改定の狙いは、「医療と介護の一体化」にあり、「地域包括ケアネットワーク」の実現に向けて、かかりつけ医をその「中核」と位置付けた。少子高齢社会、人口減社会を迎えて、なぜ地域を包括したネットワークが必要なのか、今協議が行われている地域医療構想調整会議に何が求められているのか、考えてみたい。

医療と介護の一体化とは

 ところで、これまで別々に歩んできた医療と介護の一体化や、連携をどのようにして図っていけばいいのか。かかりつけ医の役割は医療だけなのか。地域包括ケアネットワークは、我々医療関係者が、医療・介護・福祉の役割分担を理解した上で、取り組むべき課題だと言える。さらに医療関係者以外から介護分野に参入された方は、医療分野についてさらなる理解を深める事が求められる。
 具体的には、生活が分かる医療職、疾病管理が理解出来て、生活リハを行える介護職、ソーシャルワークがわかる医療職と介護職、医療・介護の機能がわかる福祉職、さらにはみんなが積極的に社会参加できる風土、そんな社会が素晴らしい「まち」を作ると信じている。かかりつけ医には、そのリーダーとしての役割を期待したい。

地域包括ケアネットワークの意味するところ

 地域包括ケアネットワークは、いうまでもなく、本来介護の必要な高齢者に、医療・介護・生活を一体的に提供していくことが、大きな目的だ。しかし、私はそれだけにとどまるべきではないと思っている。在宅での診療を受けている医療的ケア児も、「心」の病を持つ人も、社会的弱者である子どもたちも、そこに住む全ての人々をネットワークに包み込んで、誰もが安心して穏やかに暮らせる地域社会を目指すことが、本来の目的であると思っている。そのためには、地域住民の自助、共助も不可欠である。高齢者のためだけではなく、新たな「共生社会」を形成するためのネットワークだと、捉えるべきだろう。
 さらに、このネットワークは、災害時いざという時の対応にも、きっと大きな役割を果たしてくれるものと思う。

在宅医療から見た介護医療院の動向

 地域包括ケアによる「これからの地域社会」を見据えて創設が決まったのが「介護医療院」である。医療と介護の一体化を実現するための施設として、その行方を注視して行く必要がある。「日常的な医学管理」や「看取り・ターミナル機能」と「生活施設」としての機能を併せ持ち、言ってみれば、「医療」、「介護」、「生活」が一体となった新たな施設で、「老健」に近いと捉えればいい。
 創設された背景には、介護療養病床の廃止とともに、医療療養病床や一般病床の見直しも、その裏にあることを忘れてはならない。従来介護療養病床には、自宅に帰られる状態にあっても、家庭環境などの事情で入院生活を続けざるを得ない患者がいて、「社会的入院」と呼ばれていた。そこで政府は、医療費削減を狙いとして、12年前に療養病床の廃止を決めた。しかし、「なぜ必要な病床を廃止するんだ、行き場所のない患者はどうする」などの医師の反対があり、廃止期限は延長され続け、2年半もの議論を経て、「介護医療院」が新たな施設として創設された経緯がある。
 「介護医療院」で提供されるサービスは、全て市町村の介護保険事業であり、30年度からは市町村の第7期介護保険事業計画に盛り込まれ、施設数も計画に入ってくる。医療を提供する介護保険施設と言えるが、これまでより自治体との関係が強く、深くなってくることだけは間違いない。
 医療、介護、生活という、いわば「三位一体」の「介護医療院」が、これから増え続ける「慢性期」の患者、認知症の高齢者、在宅医療を受けられない独居高齢者などの、地域における「受け皿」、「居場所」のひとつとなる。今後、療養病床廃止までの6年の猶予期間の間に、どれほどの既存の医療機関が「介護医療院」に転換するのか、医師会としてしっかりと把握し、と同時に、転換する場合の情報提供など支援策についても、迅速な対策を講じていきたい。療養病床からの転換を優先し、総量規制の対象からも除外されており、全ての療養病床が転換可能ではあるが、介護保険料との兼ね合いもあり、地域のニーズを踏まえた対応が求められる。ちなみに本県の療養病床数(平成29年10月1日現在)は、医療療養病床入院基本料1(20対1)が3,866床、入院基本料2(25対1)が2,552床、介護療養病床が821床である。

 かかりつけ医の役割

 
今ひとつ、地域包括ケアネットワークにおいて、重要なかかりつけ医の役割がある。地域から信頼される医師であり、専門以外の分野にも幅広い知識と経験を持つ医師であることのほかに、これからはより介護の知識を身に着けることも大事だ。何故なら、同じ患者に医療と介護を同時に提供しなければならなくなるからだ。ケアマネジャーと、かかりつけ医がスムーズに連絡を取り合える関係を構築することも、極めて重要になってくる。
 このほか、地域で在宅医療など365日24時間対応が求められる中、かかりつけ医は他の医療機関とチームを組んだり、訪問看護ステーションとの更なる連携強化も求められる。このように多職種が水平連携する必要性がさらに要求される中、地域包括ケアでは、かかりつけ医がリーダーになる必要があり、そのための努力も惜しんではならない。
 もちろん、地域包括ケアを実現するカギは人材にある。多職種の人材が密なるネットワークをつくり上げてこそ、我々が目指す医療、介護、生活の連携が可能になり、そこに、医療・介護・福祉に係わる者の一体感が生まれてくる。これらを現実的なものにして行くには、国の制度が現場のニーズに適合し、活用されやすいものでなければならない。しかしながら、地域における医療・介護従事者の不足問題は深刻で、その解決策の一つは、医療従事者の処遇改善だと考える。短期的対策には早急な消費税アップに期待したい。日医を通じて国に積極的に働きかけていきたい。
 ところで、地域包括ケアと両輪を成す「地域医療構想」は、医療圏ごとの調整会議で様々な視点から協議が行われているが、私は、基本的には「地域完結」の医療提供体制が望ましいと考える。もちろん、地域の事情で他の医療圏と連携しなければならない状況が生じることがあるかもしれないが、「多くの機能が一極に集中する」ような機能分化や連携は出来るだけ避ける必要がある。医療圏ごとに、バランスがよくて、切れ目のない医療提供体制ができることを、強く望みたい。ある医療圏では、医療機関の統合なども協議の対象となっているほか、医療機能の変更を既に明らかにしている医療機関もある。医療圏により協議の内容は様々だろうが、公的医療機関の果たすべき役割や、自院の将来の姿を思い浮かべての、深化した協議をお願いしたい。
 そして、課題や悩みがあれば、是非我々に相談してほしい。改革の時を迎えて、次から次へと政策課題がでてくるだろうが、これからも、ひとつひとつ丁寧に議論し、決定していくという姿勢を貫きたいと考えている。


今回の診療報酬・介護報酬改定のポイント

 平成30年度の診療報酬・介護報酬改定では、急性期においては、これまで看護師の配置数をもとに定めていた一般病棟入院基本料を重症度、医療・看護必要度に応じ7分類に細分化し、回復期では回復期リハビリテーション病棟と地域包括ケア病棟の役割を明確化するとともに、実績に応じた加算が設けられた。慢性期と在宅医療では、介護医療院の創設や有床診療所における地域包括ケアモデルの支援、複数の医療機関で訪問診療ができるようになったこと、そして、かかりつけ医に対する新たな評価など「地域医療構想に寄り添う」改定が行われた。改定に関しては、今後発出される疑義解釈や通知文等には十分注意し、確認してもらいたい。

 おわりに

 4月からは、第7次医療計画、第7期介護事業計画もスタートする。少子超高齢社会を迎えるなか、この地域包括ケアネットワークの成否は、その「まち」の創生に直接繋がる。かかりつけ医をはじめ、会員の皆さまとともに医師会が、その中心的な役割を担えるよう取り組んでいきたい。